第55回 近代美術協会展
2018年8月31日から9月8日まで
東京都美術館(1階 第4展示室)
母親がよくこんな風に座り込んでまさしく「虚」の状態になっていた光景を思い出します。もっと暗い色のほうが「虚」の雰囲気が出たと思うのですが、それだと雰囲気は出ても暗すぎて作品として面白くないんでしょうね。それにこの色ならば、ぼうっと見ているうちに「虚」のタイトルを忘れて、なんかどんどん面白くなってくることに気がつきました。視覚って不思議です。
遠目に見ると様々な色が目に飛び込んでくる作品です。赤系統の花、乳白色の人、クジャクの青、白と黒のにゃんこ。少し近寄ってしまうともう、ああにゃんこが可愛い、となってしまうのですが、でも鳥も可愛いし、よく見ると魚もいるし、背景には街や森や川などの様々なイメージが散りばめられていて、見ていて全然飽きない作品です。こういう作品を勉強部屋や書斎などに飾ってしまうと、いつの間にか頭の中で猫とクジャクの物語などが始まっていたりして、勉強や仕事が全く進まなくなってしまうのでやめた方が良いと思います。
ぱっと見のインパクトは強いものの、それほど現実離れをした印象を受けないのは、頭部以外は何も現実とは変わらないからでしょうね。ゆえにあり得ない状況ながら写実画として成立している、という面白い作品になっています。個人的にはもうダリやデルヴォー、マグリットのようなシュールレアリスムの作品はお腹いっぱいなのですが、このような作品だったらまだまだおいしく食べられます。
それに最近の鑑賞者は「寄生獣」やら「遊星からの物体X」等でこういうシチュエーションを見慣れてしまっているので、大して衝撃を受けずにこの異様な状況を受け入れてしまう下地が出来上がっています。早い話、この頭部がそれほど気にならないんです。だからこの作品を素直に、家族の肖像として受け入れられるのだと思います。無理ですか?
片岡球子のダイナミックさで、カラフルなお菓子とか呉服屋さんの反物を描くと、このようになるのかも知れません。お祭りの華やかな雰囲気もありますし、はたまた血管の中で赤血球に攻撃を仕掛けている白血球の図を、想像力豊かな小学生が描くとこのようになるのかも知れません。
画家が「形成層」とタイトルを付けているのだから素直に地層とかをイメージすれば良いじゃないか、と言われるかも知れませんが、いいえ、これは多様なイメージを描いて楽しんだ者の勝ちなのです。でも何か元気が出る作品ですよね。渦巻きには人を元気にする力があるんでしょうか。